けだもの系王子
第10章 涼、束縛系?
どうしよう、せっかく会えたのに。
今から食事に行きませんか?
誘ってもいいのかな?
「……じゃあ、俺は用事があるからここで、またね?」
手を振りながら反対の道を歩きだす涼先輩。
ああ、行ってしまう、涼先輩が、せっかく会えたのに。
「涼先輩、またっ」
会いたいな。
手を振り、追いかけそうになって、また、目眩がした。
一瞬体がふらついて何とか持ちこたえる。
ああ、涼先輩の姿が、見えなくなる……。
綺麗な後ろ姿を見つめていたら、ふいに、背後から声がかかる。
「唯夏ちゃん?……大丈夫か?」
がっちりとした腕に抱き止められて、振り返る。
「あ…れ?樹店長……?」
イタリアンの店のバイト先の店長だった。
渋い顔立ちの美形、スタイル良くって背が高くて。
スウィーツも、食事も美味しく作る。
オーナーも上手だけど、あたしは店長の作ったモノが大好きだ。
店長があたしの体を支えるようにして、木陰にあるベンチに連れて行ってくれた。
促されてベンチで一息つく。
「お前、シフト詰めすぎだぞ、最近無理してんじゃないのか?」
「大丈夫ですよ〜ってか、店長が作ったシフトなんですけどね?」
「夏休みで最近忙しいし、もっとちゃんと食え、糖分もちゃんととってるか?」
「店長の作ったスウィーツなら、いつでも大歓迎です」
俯いて頭を押さえる。
隣に座った店長があたしの頭を優しく撫でた。
大きな手。
目が合うとニヤリと笑う。
「じゃあ、明日特別に新作スウィーツを食わせてやるよ、たまには褒美も必要だろう」
「大丈夫ですかね?バイト代から引かれませんか?」
「お前ね……」
和やかに会話しながら体を休めた。
お店の買い出しにたまたま出掛けてたらしくて、すぐに店に戻るみたいで、あたしの体調を気遣ってくれながらも別れる。
「本当に大丈夫か?何かあったら、連絡しろよ?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
店長とも手を振って。
体ももう平気?
少し休めたから帰ってすぐに今日は寝て、また明日もバイトだし。
ああ、その前に洗濯しとかなきゃ、朝遅刻ギリギリだったから、部屋が散らかってたんだった。