けだもの系王子
第11章 零斗、チャラ男系?
「でっかい目だな、コンタクトレンズが付いてるのが、良く分かる」
しなやかな指が伸びて、あたしの髪がさらりと掬われた。
「俺、零斗、俺らのサークルの話だけでも聞いて行かない?」
甘い微笑み。
都会に行くのを最後まで、反対していたお母さんの言葉を思い出す。
『変な男に引っ掛かからんように、気ぃつけぇよ?』
弾かれたように、彼の腕を避ける。
「あたしっ、バイトがあるのでっ、さようならっ」
いっぱいいっぱいで走り出した。
『あっ、零斗が振られた』
『受ける〜、すげぇな、彼女なんて名前?』
『……葉月だって、栄養学科の1年』
零斗さんがあたしの学生証を持って、そう呟いていたのには、気付かないまま。
ひたすら走っていた。
お洒落なイタリアンレストランが、あたしのバイト先だ。
雑誌でも取り上げられる、有名なお店。
オーナーがフランスで修行したパティシエ。
その奥様が三星レストランで修行したコックさん。
店長は若いのに、イタリアで修行したって言ってた。
憧れていたお洒落な店。
制服が何故だかメイドのコスプレで、男の人は執事のような制服にも見える。
大学に入学する前に、雑誌にこの店が載ってるのを見て、すぐに面接、採用となり、バイトを始めて1週間ほどだ。
バイトの子達は気さくに話かけてくれるんだけど、方言が気になって上手く話せない。
無口でクールな人だと言われるようになってしまって、そのキャラが定着しつつある。
でも実際は忙し過ぎて、誰かと会話する暇なんてないんだけどね。
お客様が帰った後のテーブルの片付けをしていたら、パティシエの幸人さんが傍に来た。
「葉月ちゃん、後でこのケーキカットしてくれる?」
片手にはいちごのショートケーキを、1ホール持っていた。
将来パティシエになりたいから、ケーキカットもバイト初日に教わって、幸人さんに誉められた事を思いだす。
「はいっ、やりますっ」
張り切って返事をすると、幸人さんが目を細めて笑った。
幸人さんはオーナーの親戚で、英国の血がほんの少し入っているらしくて、見た目が派手だ。