けだもの系王子
第5章 結城、優男系?
溜め息をつきながら髪を振り払う。
そこで、ギクリと動きが止まってしまう。
髪を振り払う時にほんの少し後ろが見えただけで分かってしまう。
あたしの全神経が背後に集中してしまう。
どうして?
昨日の今日で、今まで大学で出会った事なんかなかったのに。
同じ大学。
むしろどうして今まで知らなかったのか。
こんな。
圧倒的な存在感。
「結城〜!
待ってよ一緒に行こうよ?」
女の子の甘ったるい声。
「何で一緒に行かなきゃいけないの?
たまたま僕と同じ講義を受けるだけでしょ?」
「だから一緒に行きたいんじゃないっ、ねぇ一緒にいさせて?
どうしてそんなに冷たいの?」
「僕は君とは友達でもないからね?
一人になりたいから離れてくれるかな?」
「結城に一人は似合わないっ、一緒にいたいんだもの」
「あのね、いい加減にしてくれないかな?
僕は今それどころじゃないんだよ?」
…………………。
なんていうか揉めてる?
ひょっとしてあれが結城の言うところのストーカー?
いやいや、どうどうとついて行ってる感じ。
芽以がニヤニヤしながらあたしに耳を寄せた。
「出た出たこの大学名物イケメン。イケメンなんだけど巻き込まれ系?
女難の相って感じ、性格なんだろうけどおもしろいんだから」
笑いを堪えてる様子の芽以。
「知ってるの?」
「もう千尋は男に興味がなくてスルーだったんだろうけど何度も見かけるし目立つじゃない?
おもしろいしね?」
「早く行こうっ」
あたしは芽以の手を繋いで引っ張る。
「あっ、千尋?」
芽以が声をあげた。
早くその場から離れたかったのに、逆に目立ってしまった。
しまったっ。
「……千尋っ!?」
背後で響く結城の良く通る声。
聞こえないふりをして走り出す。
何故だか芽以も一緒になって走ってるし。
「やだ結城〜?」
甘い声も一緒に聞こえるんだけど。
なんなの、この状況!?
「千尋っ、待ってっ?」