テキストサイズ

暗闇の中の一等星

第3章 母親の記憶―紗希の過去―

紗希は暗い嵐の夜に一人、家で泣いていた。外は凄まじい風が吹き、激しい稲光。まるで紗希の心を投影するかのようだ。


 紗希は先ほど、真治と話をしていて、些細なことから喧嘩になってしまった。


「家に帰って紗希が料理して待っててくれたら嬉しいな」


 真治の言葉に紗希は黙り込んでしまう。


「何で黙り込む?」

「……できない」

「えっ?」


 紗希の一言に真治は困惑する。


「だって何もできないもん」

「何でさ? 俺も協力する。何も紗希だけに任せるとは言ってない」

「でも、教えてもらってない。中2にお母さんを亡くして不安なの。できないよ」


 紗希の声は次第に沈んでいく。


「紗希はお母さんがいないことを言い訳に逃げている。俺だって、小さい頃から親がいないけど、自己流で料理も掃除も覚えてきた」


「みんなが真治みたいに強いわけじゃない」


「俺だって強いわけじゃないよ。人のせいにしないで頑張ろうってこと」


「真治は私のこと分かってない」


 紗希はいよいよ泣き出してしまう。


「そうかもな。でも、今のままじゃ紗希は成長しない。一度、考え直した方がいい。そんなんじゃ、お母さんが可哀想だよ」


「もういい!」


 そう言い放つと紗希は電話を一方的に切った。


 いつもならすぐかけ直す真治だが、この時ばかりは紗希のことを放っておいた。それは真治なりの優しさ。それに気づかない紗希はひたすら泣く。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ