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暗闇の中の一等星

第3章 母親の記憶―紗希の過去―

 警察が来ると紗希は事情を聞かれる。大方は本当のことを話す。だがテレビを見ていたことは言えなかった。


 母の死因は薬の飲み合わせが悪かったということ。古いのと新しいのを一緒に飲んでしまったから。遺書などが見つからなかったことや、昨日や朝の様子から事故と判断された。


 薬を飲む前、母は父と電話で喧嘩をした。母はこれ以上、父に迷惑をかけまいと、睡眠薬を飲んだ。それでも効かず、結果、そういう行動に出たと推測される。


うつ病を四年ほど患っていた母。いつかこうなる日が来てもおかしくなかったのかもしれない。


 父は帰ってくると、不安気な顔をする紗希の頭を撫でた。父は母の名を泣き呼ぶが、もちろん返事はない。父は突きつけられた現実に、酷く傷ついたように顔をしかめる。


 落ち着くと救急隊員は先に帰った。警察と書類についての話をしている。その間、紗希はただ茫然としていた。


 それからは田舎からおじいちゃんとおばちゃんが来たり、お通夜やお葬式の準備をしたりで慌ただしく過ごす。


 お通夜やお葬式の時にはたくさんの親戚や紗希の友達たちが来る。紗希は涙を流すことが出来なかった。自分がしっかりしなきゃ、そう思って気を張っていたから。


 お通夜やお葬式が終わり、いつも通りの日常に戻る。紗希の心にはぽっかり穴が空いたかのようだった。

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