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リモーネ

第3章 卯の花とフユベゴニア

「…なぁーんて。突然言われても困るよね」

まぁ、そうですね。状況が全くつかめませんし。

「だからさ、お試し期間。しよ?」

俺がどう答えて良いか迷っていると、かえで先輩から提案をされた。

「はい?」

「どうせ、セナちゃんのことだから女の子とさえ付き合ったことがないでしょ?
だから、恋人同士がどんなものであるかを俺が教えてあげる。」

かえで先輩はむかつくほどのどや顔で俺をけなしつつ、恋人ごっこにさそう。

恋人同士がどんなものであるかを教えて欲しいとも恋愛がしたいとも思っていない俺は、その誘いの意義がわからない。


「そんなことしてどうするんですか。」

俺が不信感、不快感を思いっきり態度に表して返答をすると、かえで先輩は俺の目の前に指を一本立てた。

「1週間。

1週間で俺はセナちゃんを落として見せる。」

そんなことを言われても…。

「…はぁ、そうですか、頑張ってください。」

というか、そもそも誰かに落ちるとか落ちないとかは俺の感情なんだから勝手に宣言されても困る。

「明日からだよ!1週間!!わかった?セナちゃん?」

かえで先輩は俺の完全に社交辞令のようなものである返答をイエスととったのであろうか。

突然立ち上がり、満面の笑みでそう言い残して中庭を駆け足で跳ねるように出ていった。


…とにかく落ち着いて今の状況を考えよう。

かえで先輩が中庭を出ていった後しばらく先輩が通った小路を眺めていたが、今のかつて無い状況を理解しようと試みた。

かえで先輩に好きだと言われ、付き合ってと言われ、お試し期間…。

どういうことだ!

かえで先輩って男だよな。俺も、男。

…え、女に見えてんのかな?

そんなことはないだろ。

先輩の目の前でパンツ一丁の時あるし。
かえで先輩のパンツ一丁も見たことあるし。


うーん…わからない。

そんなことを、アリに運ばれていく死んだバッタを眺めながら考えていると、人が来た気配がした。

「…あ、田部ちゃんだ。」

かえで先輩が去っていった小路から現れたのは同級生で剣道部の田部奏子だった。

「りん君…。」

田部さんは俺の苗字、竜胆(りんどう)が長い!
と初対面で言い放った、なんというか、自分の意思が強い。

まぁそれ以来、俺のことをりん君と呼ぶ。

「田部ちゃん?どしたの?」

でも、なんだか普段と違う。

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