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リモーネ

第4章 ツルバラ



「あ。」

電車であることを完全に忘れていた俺が口をパカッと開けていると、虫入るよ。とばかにするので腹がたって、帰りますよ。と言いはなった。



「セナちゃんはさぁ」

歩き始めてすぐにかえで先輩が話しかけてきた。

「なんですか」

「電車登校しないの?」

「いや、別に自転車で通えない距離じゃないですし。」

「でもさ、電車の方が楽じゃん」

「運動になるので」

「部活してさらに運動するとかしんどいじゃん」

「ほとんど剣道しないんでしんどくないです。」

「…むぅ。」

それきりかえで先輩は黙り込んでしまった。

静かでいいや。と思っていたのもつかの間。かえで先輩が再び話しかけてきた。

「部活、いつもしんどかったら電車登校する?」

「まぁ、そうですね。考えます。」

「じゃあそうしよう。
セナちゃん明日、電車通の学割の申請、一緒に行こうね。」

「はい?」

あまりに唐突な事態に首をかしげてかえで先輩の方を向くと、かえで先輩はそんなかわいく小首かしげないの。とまたもやばかにした。

「明日から剣道頑張ろうねってこと。」

「最初からそういってくれたらよかったのに。」

やっぱりかえで先輩はよくわからない。



俺とかえで先輩は偶然にも同じ方向の電車で、かえで先輩の方が2つ前の駅で降りる。

でも先輩は自分の最寄り駅で降りずに俺の最寄りまで行くといい、聞かなかった。

「なんでわざわざ?」

俺は上りの電車から俺の最寄りのプラットホームに降りたところでかえで先輩に問いかけた。

「え、そんなのセナちゃんが好きだからに決まってるでしょ。」

「…。」

「まぁ、明日も迎えに行くから。遅刻しないでね。」

かえで先輩はそう言いながら向かいのホームに来た下り電車に近づく。

普通電車しか止まらない俺の最寄り駅は乗り場が2つしかない。

だから登りも下りも同じホームの向かい側にある。

「別にいいですよ。かえで先輩も俺も、電車代もったいないんで」

下り電車が完全に止まり、扉が開く。

「もーそんなこと言うなよ寂しいじゃんかー。」

かえで先輩はそう言いながら電車に乗り込みこちらを向いて苦笑する。

「扉が閉まります。ご注意ください」

電車の車掌の声がスピーカーから聞こえ、電車の扉がしまる

かえで先輩は笑顔で俺に手を振り、俺は軽くお辞儀を返す。


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