
リモーネ
第4章 ツルバラ
その日、夢を見た。
すごく幸せだったけど、少し複雑な夢を。
「セナは、大きくなったら何になるの?」
「くまさんはかせ!」
「そっかーくまさんの博士になるんだね?かっこいいね!」
「うん!ぼく、くまさんだいすきだから、くまさんせんせいになっていっぱいくまさんとおはなしするんだ!!」
俺は、お気に入りのテディベアを抱えながら母と話していた。
俺が小学生の時に死んだ母と。
そこまで見たところで、母が突然微笑むのをやめた。
「…セナ。」
「なぁに?」
俺は目の前のテディベアと母が小さくなっていくのを感じた。夢の中の俺が成長したということなのだろう。
「後悔しない方を選びなさい。
お母さんは、貴方は知らないけれど、あの選択をして後悔しているわ。」
母はそういって俺の左頬に右手をそっと添える。
「周りがどう思ったって関係ないの。
貴方は貴方らしく、素直に、生きなさい。
貴方を作った神様が間違いを犯しているはずはないわ。
あなたの気持ちのすべてが正しくて、真実なの」
母は自信を持ちなさいと微笑んで、光のように消えた。
「セナ。」
母の言葉を口のなかで繰り返し呟いていると、声がした。
「かえで…。」
声のした方を見ると、そこにはかえで先輩がいた。
「こっち。」
と、両手を広げるので俺は引き寄せられるように抱きついた。
そうすると、かえで先輩も俺をしかと抱き留める。
「…好き。セナ。俺、セナのことがたまらなく好き。」
「俺はかえでのこと、大好きだよ。」
