今日も明日も
第58章 見えない鎖 part Ⅱ
「何見てるの?」
飲み頃まで冷ましたカップをかずくんに手渡し、両手でちゃんと受け取ったのを見てから話し掛けた
「ベランダにね、鳥さんが来てた」
「そっか」
やっぱりかずくんは幼いと思う
20を過ぎた奴が “鳥さん“ とか普通言わない
なのに何故かそれを可愛いと思ってしまう自分がいる
後追いする子どもみたいなかずくんに、このまま追っていて欲しいと心のどこかで願ってる自分がいる
カップに恐る恐る口を付けたかずくんが “おいしい“ と小さく呟いた
その顔が、窓からの光に反射して笑っているように見えた
光の加減なんてのは分かっている
だって実際には、まだかずくんの笑顔は見ていない
だけど俺には笑顔に見えた
笑顔だけど、今にも消えてしまいそうな儚い笑顔
その瞬間、何故か堪らなくなってしまった俺は
カップを床に置いてかずくんを抱き締めていた
驚いたかずくんの手から、カップが落ちる
まだかなり入っていた茶色の液体が床に広がるのを、どこか他人事のように感じながら、その華奢な体を抱き締めた
かずくんは驚きが勝ったのか、身動ぎ1つしようとしない
なすがままに、俺に抱き締められていた