トクベツ、な想い
第12章 12
「じゃ、俺帰るから」
「え!?そこは助けてくれんじゃ…」
「甘えんな…それと俺、今禁煙中だから」
あぁーと伸ばされた手を背に部署から出る間際、時計を見てため息が出た
急いだつもりだったけど…
今しがた9時を回ったことにどうしようと考え足を進ませた
「もう少し早く終わってたら行けてたかな…」
どうしようもない、仕事だから
分かっているのに…
潤の部署だって忙しい
持ち込んでやってるとも言ってたし、行ったら迷惑だ…
会社から出ると当たりようのない感情を、すっかり暖かくなった風に乗せて流した
部屋に入り電気だけ点けると
スーツも脱がずソファに座って体を沈めた
あのサイト…見なきゃ良かったかな
…関係ないか…結局は自分達の問題
天井を仰げば恋しそうに、片手が勝手に上へ伸びゆく
俺と潤の間には超えられない壁がある
それは行為だけじゃない、色んな一線
恋人同士なのに本音が言い合えなくなって…
近くに居ても…遠く感じてる
一緒にいるだけで幸せなはずなのに…こんなに苦しくて不安
そうだ…恋ってこんなんだった
伸ばした手をぎゅっと握る
…体が繋がったって…苦しさは拭えなかった…
あの頃の記憶
「……美咲…」
久しぶりに口にした元カノの名前
今は潤がいるのに…首をブンブン振って腕を下げた
「…明日も仕事だ」
ー次の日の朝、洗面所でシェイバーを口回りに動かしていると
テーブルの上に置いてあるiPhoneが"潤"の表示を出して鳴った
シェイバーを一旦止めて駆け寄り、電話に出た
「もしもし、おはよ」
『翔くんおはよ!急なんだけど明日の夜、暇?』
潤も準備中なのだろう
ガサゴソと音をさせて声も安定していない
こちらもスーツを羽織りつつ、明日は休みだけど特に何も計画してないなと考えてたことをほぼそのまま伝えた
『良かったー、あのさ俺の友達が店やってるんだけど飲みに行かない?』
なんだ、泊まりにくるんじゃないのか
それは声に出さず、潤に会えるならと承諾した