トクベツ、な想い
第12章 12
「今日はバイト早かったのね」
御越さんが声を掛けたその子は中島美〇そっくりで
映画であった役の顔と似ていた
でも片手にはマイクではなくスーパーの袋
服装はロックではなくとてもカジュアルという、役柄とは正反対の格好だった
当たり前か…でも似すぎ…
中に入ってきたそっくりさんは俺の顔を見ながら近付いてきて
「潤って面食いだね、美味しそう」
「殴るよ?」
言いながら俺の肩に触れた手を、潤がにっこり微笑んで持った
目が笑ってねぇ…てかこの子も知ってるんかい
「ダメよ、倫(りん)早く着替えてらっしゃい」
言われた通り、スタスタと従業員用の部屋へ入っていった
「ここの兄妹には気を付けて、翔くん」
「え…妹…さん?」
「そう、似てないでしょ アタシ達ねー母親が違うのよ」
"なるほど"と納得すればまた音を鳴らし扉が開く
今度は客が数人入ってきて
俺達の前にビールを出してくれてた御越さんがそっちの対応に離れていった
出されたグラスを持って口に運ぶ
「蓮くんはね、バイなんだよ」
聞き慣れない言葉に、飲みながら視線を潤に移動させた
「バイセクシャル…女も、男の人も恋愛対象なの
だから俺の相談もしやすくて…本当に男の人好きになるのなんか、初めてだったから…すごい助けられた」
「そう…なんだ」
そこから少し潤の昔話を聞いた
大学生の頃、付き合っていた彼女が妊娠してしまったという驚きの切り出しから…
一言で言えば若気の至り、不注意だったけど嬉しくて
卒業したら2人を支えようと決心をし、潤はすぐ彼女に結婚を申し込んだらしい
良い返事がもらえて幸せだったと、少し顔を緩ませていた
しかしそれから1カ月も経たない間に彼女が中絶をし
"好きな人ができたから潤の子はいらない"
そう言われたそうだ
それは相談もなしに、まるで自分が殺されたかのような衝撃が走ったとグラスを一点に見つめ呟いた
彼女と別れてからなんとか大学を出て
一昨年、何もかも忘れるように上京してきたらしい
仕事は特に決まってなく、家族の反対を無視して地元を出た為に仕送りもない
出る時に持ってきた少ない自分の貯金を崩してあのマンションを借り…
ただ生きていたと