トクベツ、な想い
第12章 12
「もう…いいって」
潤の服の裾を掴んだ
時々言葉に詰まりながら、切ない表情を浮かべて
話す度に震える唇が見ていられなかった
でも潤は首を横に振った
「……こっからなんだよ…」
深呼吸をしてからまた話を再開させた
部屋に帰っても彼女のことを思い出して苦しむ
一時期、女性恐怖症になったらしい
眠れないからと近くをふらふらすれば
通り過ぎる女の子にさえ怯えて、隠れるように路地裏に入り
そこにも女の人は当然いたから
逃げるようにあちこちの店に入って酒に溺れ
その内たまたま目に入ったあのオカマバーに入店し遊ぶようになったと
最初は御越さん達の生き方をバカにしていたけど
親のように、時に叱ったり優しくしてくれるその人達といる場所が心地良くて通うようになっていったみたい
でも貯金はギリギリ、なのに遊ぶことが止められず
御越さんがいたたまれなくなって何度か立て替えてくれたって
「そんなある時、店に入った新しい子に襲われそうになっちゃったのよ潤ちゃん」
ビクッと肩を揺らして前を見ると御越さんがにこにこして聞いていた
いつの間に…
「襲われたってか…俺が襲いそうになったっていうか…女の人、怖かったんだけど…すごい優しくしてくれてさ
その人ニューハーフだったんだけど…本当に女の子みたいな顔と声で…」
「やっだ、知らないんだからぁ
餌食になりかけたのよ…襲わせて"襲われたー"って騒いでお金ふんだくる手口してたって…結構有名な子で
アタシも助けた後、オカマ仲間に聞いたんだけどね」
まじかと潤が項垂れる
こりゃホントに恩人だと思った
しばらくして御越さんが独立すると聞いて
それからはこっちのお店に通うようになったみたいだ
仕事を探す手伝いもしてくれたらしくて
「蓮くんは、翔くん並みに頭いいから
大学でパソコンとか色んなこと学んではいたけど
もっと教えてくれて、資格とかも詳しく…今のでかい会社じゃなくても良かったんだけど、お陰で去年すぐに入れたんだ」
「知識だけですぐになんか入れねぇよ…潤自身が良かったから受かったんだよ」
照れ笑いをしながら潤のビールが飲み干された
確か寿退社した女性社員がいて
新しく男性社員が入ったって聞いたことあるけど…それが潤だったんだ