トクベツ、な想い
第14章 14
そこから動かないその子の手にはカバンだけが握られていて、状況からして折り畳み傘も持っているようには見えなかった
回りを見渡しても一緒にいるのは俺だけだったので
仕方ないかと女の子に近付き傘の持ち手を差し出した
「どうぞ、これ良かったら」
「…え」
「傘…ないんですよね?」
「あ…はい…今日は降ると思ってなくて」
俺に向いて話すその子は清楚な雰囲気で
またみゆちゃんとは違う、女の子らしいとても可愛い顔をしていた
一瞬見入ってしまったがすぐにいけないと我に返り手に傘を握らせる
「え、いいですよ…そんな」
「結構降ってるしこのままじゃ帰れないでしょ?
それどうせ置き傘だし…そこの傘立てに突っ込んどいてもらえればいつでもいいんで、じゃ」
カバンを頭に乗せて
それだけじゃ防ぎきれない雨粒を受けながらマンションまで一目散に走った
「あーびっちょびちょ…」
エントランスに入るとまだ開かれていない自動ドアに自分を写して、その悲惨な姿に苦笑した
髪から水滴を溢し自分の部屋番号とインターホンを押す
「もういるんかな…」
思ってすぐ自動ドアがスライドした
にやける口元を抑えて、自分の部屋の前まで行きトントンと合図の音を鳴らすと
カチャッと扉が開かれた
「お帰り、翔くん」
「…うん」
潤と体が重なった日から1週間もしない内に、俺の部屋の合鍵を渡した
いつでも来ていいと、一言添えて
それを涙を浮かべながら受け取ってくれて、そして潤の部屋の合鍵ももらった
俺のキーケースに大切に繋がれている
ちなみに同棲まではいってない
「ただいま…」
このやり取り、何回かしたけど…どうも慣れない
新婚みたいで照れる
「翔くんびしょびしょ!」
「え、あ、うん…雨だから」
「そうじゃなくて、傘なかったの!?」
「置き傘あったんだけど
傘なくて困ってる子いたから、貸しちゃった…」
「…もう、風邪引いたらどうすんの!」
中にぐいっと入れられ、ドアをきちんと締めると浴室まで背中を押された
「ちゃんと温まるんだよ」
そう脱衣所に押し込まれドアが閉められる
「…なんか…母さんみたいだな」
クスクス笑いながら大人しくシャワーを浴び、浴槽に浸かった