トクベツ、な想い
第16章 16
「櫻井さんの好きな人って…松本さんですか?」
突然だった
またあの時と同じ、透き通った冷たい声
俺の心臓は跳ね、手はそのまま硬直した
何かの間違えとゆっくり後ろを振り返る
「へー…やっぱりそうなんですね」
怪しく微笑んだ先程とは違う子がいた
「な…は、何言って…」
「お弁当、松本さんが作ってるんですね
料理が好きだって前言ってましたし…」
「何を…根拠に…」
泳ぐ目を止められない
ドキドキと鼓動が早さを増して、額に汗が滲みだす
なんでバレた…?
そればかりで、頭の中は冷静さを失っていた
"魔性の女"が追い討ちをかけるように俺に向かいスマホの画面を向ける
「たまたま…だったんです」
にやりとした彼女の顔の前のスマホには
キスをしている俺達が写っていた
「…っなんで…」
「私の家がここから近くてたまにこの路地使うんです
この時も気分で、そしたら…ふふ…ダメですよーこんな外で」
いや、でもあの時誰もいないって潤と確認した…
「これ…どうしましょう
部長に見せようかなーそれとも、社長?
あ、社員みんなのパソコンにばらまきましょうか…」
「そんなん、合成だって相手になんかされないだろ…」
「動画もあったりするんですよねー」
ズームで寄った動画が出された
高画質で映った俺達
こんなの、誤魔化しようがない…
俺はどんどん青ざめて、反対にその子は楽しそうに笑って…
咄嗟に止まっていた体を動かしスマホをとろうと近付いた
「ちょっ…大きい声出しますよ?」
迫る俺に慌て、証拠品を後ろに隠して
またもやこちらに不利な台詞が吐かれる
もうそろそろ会議に出席する社員達がくる頃だ
くそっと苦虫を噛んだような表情をして後ろに下がった
「まぁ…パソコンに移してあるんで、そんなに心配しなくてもいいんですけど」
「……なんだよ…それを餌に、金でも揺する気…?」
「あれ…もっと賢いと思ってたんだけどなー」
「じゃあ何…」
待ってたと言うように目を細め、口角がより一層上がった
「松本さんをください」
「…は?」
「だから、松本さんですよ…欲しいんです」
"欲しい…"
あれは潤が欲しい、そういう意味…