トクベツ、な想い
第16章 16
それからしばらく潤とまともに会えなくなった
メールも電話も拒否して
無理に部屋に押し入られた時は、なんでって言葉になんでもないってひたすら返して強引に帰らせた
ただ考える時間が欲しくて
どんな表情をしたらいいのかも分からなくなって
あれ…そもそもどういう顔して会ってたんだっけ
こんな調子で
まるで毒牙にかけられて魂が抜けたような…
そんな日々を過ごしていた
ー「お前、最近顔色悪いぞ」
「…気のせいじゃない?」
「ちゃんと食ってる?」
「…うん」
俺は彼女に近付かれないように行動していた
常に電波を張って、そのせいで気が休まることはない
最近は頭痛が酷くて…
仕事にも支障が出て…
俺だけ残業なんてざらだった
それ程に、俺達の関係を知ってる葵ちゃんの存在に怯えた
今日も自主的に残業を終え、会社を出た
歩いている社員はほとんどいない
前はうちの部の人達がちらほらいたのに
今は…夜遅くまでやってる社員なんて俺くらい
当然か、アプリは完成した
何日かしたら多くのマスコミと、テレビカメラの前で発表会見が行われる予定
このプロジェクトに比べれば
次に舞い込んだ仕事なんて、いつもなら難なくこなしていくのに…
「…会いたい…な」
すがりたい
蓄積された不安を崩してほしいのに
聞いてくる問いになんて答えれば…
「櫻井さん」
「っ…!」
残業だったのか会社から出てきた彼女
「ねぇ…避けてないでそろそろ答え聞かせてくださいよ」
じりじりと歩み寄ってきたが、俺はそれに合わせ後ろに下がって…
「っちょ…」
隙を見てマンションまで走った
「っはぁはぁ…」
暗証番号を打ち込む手は震え、エレベーターに乗れば汗がぽつぽつと垂れる
ふらつく足で部屋の前に着くといつも通りキーケースを取り出した
ーカチャ
え、まだ…鍵穴に差し込んでいないのに…
「え…えっ?」
誰もいないはずのドアの向こうは明るく
玄関から伸びてきた手に腕を引かれ、部屋の中に飲み込まれた
「もうはぐらかさないで」
「…じゅ、ん…」
汗が滲んだワイシャツ姿の潤が前に立っていた