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トクベツ、な想い

第16章 16





「…何して…明日も仕事だろ、帰った方がいいよ…」



会いたいと思ってたのに…やっぱ…ダメだ…



「…なんで、そんなこと言うようになっちゃったの?」



視線を逸らす俺に、わけがわからないと怒りにも似た声のトーンで



「ちゃんと答えろよ」



キツめの口調が降り注ぐ

唇を噛み締めてそれに耐えると、潤の横を通り過ぎてリビングまで歩いた

何もないと悠然とした顔をして
カバンをソファに置き、冷房をつける



「…帰れよ」



玄関に向かって、顔は見ないように言った



「…翔くん変だよ」


「別に…気のせいだって」


「そんなわけないだろ!?」


「うるせぇな!」



もういっぱいいっぱいなんだよ…


写真や動画をつるさげて

か弱い女性にこんなにも…簡単に揺すられてる


呆れるだろ…


頭がパンクしそうなんだ…



ズキッと頭が痛んで、片手で額を覆った



「水原葵?」


「何が…」


「絶対なんかあったでしょ」


「…何も」



潤のため息が聞こえた

気付かないフリをしてソファに座り、額に手を当てたまま少し俯いた



「…俺を拒否してるのはなんで…」



ホントは毎日でも会いたいよ



「会ってくれないのはなんで…」



だって聞いてくるだろ…



「話してくれないのはなんで…」



…話したら自分を犠牲にして…行っちゃうだろ…



「…もしかして…あの子に心変わりなんてしてないよね…?」



そんなはずないだろ


全部、声になって出ない


…あの子の傍に潤を行かせたくない、俺だって行きたくない


でも、未来のことを言われてしまったら…

潤の将来を考えたらどうなんだろうか

今は付き合っていられている俺達…この先は果たして明るいものなのだろうか

中々認めてくれない世間から冷たい目をされて

こそこそして

バレたら今のように悩んで恐怖して…


それは幸せと言えるのか…?



溜まった不安に心がどんどん黒く染められていく…




「…黙ってるってことは…そうなの…?」




冷めた声が部屋に染みた


染みは次々と範囲を広げて
部屋も、潤も、俺も…この関係も溶かしていくよう






「……もう、いいよ…」







…パタン


その音が俺達の世界をも閉ざした


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