トクベツ、な想い
第17章 17
店の入口の鍵を解くと、扉に定休日と書かれ吊るされたプレートを揺らし中に通された
電気がパッと点けられ
BGMが掛かってないしんとした空間を歩く
促されるままカウンターのイスに座った
目の回りを手でごしごしと拭いて、鼻を啜っていると
「はい」
カウンター内に入った御越さんからおしぼりが渡される
軽く頭を下げて
受け取ったのを顔全体に敷き、汗も一緒に拭いた
「お茶でいいかしら?」
「あ、そんな…休みなのに」
「いいのよ気遣わなくて…今日はお客さんじゃないでしょ?」
「え…」
「お友達、でしょ?」
あまりに柔らかい口調に安らぎを感じて、涙腺が崩壊しそうだった
目におしぼりを押し付けて唇を噛むと何回も頷いた
「だから御越さんじゃなくて、名前でいいのよ…」
「……蓮くん…」
「はい、翔ちゃん…」
俺の隣にグラスを持った蓮くんが座った
おしぼりを置いて、差し出されたお茶を受けとり口に含んだ
蓮くんは俺を見ず又、何も言わなかった
横で、真っ直ぐボトルの棚を見つめてグラスを口に運んでいる
きっと俺にプレッシャーが掛からないよう…心の準備が出来やすいよう…
「…ありがとう」
「何もしてないわよ…」
にっこり笑って
蓮くんには言い様のない安心感が醸し出されていた
「………蓮くん…聞いてくれる…?」
「もちろんよ」
こっちに体と顔を向け、俺は少し俯いて
葵ちゃんのこと…潤とのこと…
時折、言葉を止めながら…今日までの状況を少しずつ話した
「……そう…」
蓮くんは話を聞いても尚、優しく微笑んでくれていた
「…もう…分かんない…」
「…翔ちゃんは、自分を追い込むのが上手ね…」
おしぼりを握り、俺は更に俯いた
「言葉って…大切よね…」
蓮くんが俺の目線に握った拳を出して
「アタシがどんな気持ちで出してるか…分かる?」
「……なんだろ…」
「アタシは今、頑張れって気持ちで拳を出したの」
想像してたのと違くて、顔を上げた
「言わないと分からなかったでしょ?
…翔ちゃんはアタシじゃないし、アタシは翔ちゃんじゃない」
言わないと分からない…
頭では分かってたつもり…