トクベツ、な想い
第2章 2
『たぶん僕も大丈夫だと思います』
「良かったーじゃあ店は俺が予約しとくから
終わったら会社の外で待っててもらえる?」
『はい、分かりました!』
「じゃ、そういうことで!」
お互いに元気よく話し終えると電話を切った
…こんなやり取りはもう…
ぼんやりと記憶を掠める愛しかった人の顔
忙しくて最近思い出すことなかったけど
なんで今…
こうやって記憶の中から消えていくのか…
なんなら全部消えてくれて構わないのに
ため息ばかり出た
「あーダメだダメだ、しっかりしろ」
自分の頬を叩いて情けない顔に気合いを入れる
「よし、行っか」
―仕事の合間の休憩中
俺の部の近くには広い公共スペースがある
そこにあるいくつかの自販機からカフェラテの缶を買うと、ソファに座りカポッと開けて飲んだ
一息ついてからiPhoneをズボンのポケットから取りだしここら辺で良さそうな店を検索する
「そういえば好みとか聞いてねーな…
どんなんがいいんだ、最近の若者は」
画面に出てきた数種類の店の情報を見ながら
指で下から上にスクロールさせていった
会社から近い店で
男同士が行っても浮かなそうな、お洒落すぎないレストランに目が止まった
喜ばれるかは分からないが
そこのイタリアンレストランに丁度予約の空きができたみたいで、すぐに予約をした
「うしっ」
缶の中身を何回かに分けて全て飲みきると
ソファの側にあるゴミ箱に捨て
用は済んだので仕事場に戻ろうと思った時
「櫻井さん、お疲れ様です」
「…お、お疲れ」
みゆちゃんが笑顔で俺の前に立っていた
座ったまま見上げて思わずドキッと鼓動が鳴る
「櫻井さん…」
「ん?」
「今日…良かったらお食事でも…どうですか?」
「……へ?」
予想外の言葉にまぬけな声が出た
お互いに黙って
俺はそれに加え固まってしまった
さ、誘われてる俺…!
真っ白な頭の中で少しずつ状況を読み出すも
今日の朝のことを思い出して
「…ごめん…今日は先約が…」
「…あ…、そ…ですよね」
松本くんとの約束のが先だもんな
折角誘ってもらえたけど…
申し訳ない気持ちと惜しむ気持ちが一気に襲った