トクベツ、な想い
第3章 3
「…今日、気になってる子から食事に誘われてさ」
片手で隠した口元が更ににやけた
「……へー…」
……あれ?
それだけ?
聞いてきたのはそっちなのに
反応が薄すぎて拍子抜けしてしまった
もっとさ…嬉しい…っていうのは変だけど
なんなら、なんだよーノロケかよーと言うような不機嫌な顔になってもいいとこなのに
何、その引くぐらいの真顔
「お待たせしましたー、生中と烏龍茶です」
ナイスタイミング…!
店員が飲み物を俺らのコースターに置いていくと俺は烏龍茶のグラスを持った
「とりあえず、乾杯」
「かんぱーい、お疲れ様でしたー」
真顔から少し顔を緩ませてジョッキを持った松本くんが、烏龍茶のグラスにカチンッと当てて勢いよく半分くらいまで飲んでいった
烏龍茶を口に含みながらそれを唖然と見た
「…っはぁー…
その人って、1次会の時…最後に櫻井さんのお酌に行ってた女の人ですか…?」
「…え…うん、そう…よく覚えてるね」
グラスをコースターに置くと、店員が軽いものから順番に料理をテーブルに運んできた
混んでいるのに料理が出てくるのが早くて驚く
人気の理由の1つでもありそうだ
「……櫻井さんのこと、見てたので」
ジョッキを置く途中、ボソッと松本くんが呟いた
料理に箸を伸ばす手が一瞬止まる
「…はは、見られてたか」
きっとそこで初めて知り合ったから
ただなんとなく、その時目に入ったんだろうな
その言葉に深い意味なんてあるはずない
そう解釈して笑いを含めつつ今日のことを大まかに話した
黙って話を聞いている松本くんは笑っていたけど…目が笑っていないように見えた
「…好き、なんですか…?」
「んーたぶん…いいな、とは思ってるんだけど正直好きかって聞かれると…
他の人から聞けばもうそれ好きじゃんって言われるんだろうけどね」
「…そうですね」
なんで…笑ってる顔がどんどん切なくなっていってる
俺、なんか悲しませるようなこと言ったかな…
「ごめん、こんな話…つまんないよな」
「あ、いえ…」
「松本くんは彼女いないって言ってたけどさ
好きな人とか…」
そこから後の言葉は飲み込んだ
泣きそうな顔を…していた