トクベツ、な想い
第3章 3
「こちらこそ
ちょっと早く出るようになっちゃったけど…
この前のお礼も含まれてるから、楽しんでもらえたなら良かったよ」
「お礼なんてそんな、良かったのに…」
「い、い、の」
ニカッとしながら強めの口調で言い聞かす
他の後輩にも普段先輩らしいことをしてあげられてないから
今日は先輩面をさせてほしかった
「この後、どうする?
まだ時間も早いし…どっか居酒屋でも行く?」
会社から近かった為、5時半に予約をしていたから
まさか店があんな状況とも知らず
こんな早く出されるとは思ってもみなかった
「あ、でも櫻井さんお酒飲まないならつまんなくないですか?」
「んー…俺はあんまり気にしないけど…」
新年会まではほとんど飲んでいなかったから慣れていた
でもこれも松本くんに気を遣わせてしまうのか…
俺は帰っても良かったけど、折角時間空けてくれたしな…
しばらくうーんと唸ってから
あ、と松本くんに顔を向ける
「…うちで飲む?」
「へえ!?」
松本くんの裏返った声が出た
そんな声出すんだと思わず笑ってしまった
「ははは、悪い
そんなに驚くと思わなかった」
恥ずかしそうに片手で口を押さえていた
「…いやでも、悪いですし」
「俺から言ってんだから悪くないよ
でも無理にとは言わないよ、俺ん家汚いから」
「…そんな、…うーん…じゃあちょっと…だけ」
そうふにゃっと笑ったのが
いつもの笑顔より可愛く見えたのは気のせいだろうか
-いつも利用しているコンビニで酒とお茶とつまみを買い、マンションに入ろうとすると
「え…ここ僕の住んでるマンション…」
ぽかんとしている松本くん
マンション入口の扉を開けエントランスでテンキーに暗証番号を打ち込んでると、足を止めていた松本くんも入ってきた
「言い忘れてたんだけど
俺もこのマンションなんだ、しかも松本くんの下の階」
「えぇ!?」
「はは、俺も松本くんの部屋から出た時はビックリしたよ
会社から近いから誰かしらはいると思ってたけど、すごい偶然」
自動ドアがすーっと開く
まじだ…という顔をしながら俺の後に着いてくる姿がなんかすごく面白かった
2人でエレベーターに乗り込み2階のボタンを押した