トクベツ、な想い
第3章 3
驚きにうおっと軽く体がのけ反った
目を泳がせながら″帰ります″と呟くので
ぶら下げてあったジャケットを手渡す
「大丈夫か?ちょっとフラフラしてるけど」
「大丈夫です…上に行くだけだし」
「激近だな、はは」
ジャケットを着てから律儀にテーブルの上を片そうとするので、それを止めると松本くんがソファの下の一点を見つめていた
おもむろにそこに手を伸ばして何かをとっている
すると彼の手には
胸を露に出している女の人が表紙の雑誌が握られていた
あ…片付け忘れ…
かぁっと顔が熱くなった
エロ本なんて男なら誰でも持っているんだろうが、見付かると異様に恥ずかしい…
へぇ…と俺の顔とエロ本を交互に見られる
「い、いいだろ別に」
そうだ、健全じゃないか
松本くんだって持ってるだろ…とは
話を広げたくなかったので言えなかった
「この人、安藤さんに似てますね」
「そ、そう?たまたまじゃない?」
ペラペラ雑誌を捲りながら話してる姿はレストランで気まずくなった時と同じだった
さっきまでとは違い、いやに冷静で
笑みがもうこぼれないんじゃないかと言う程の真顔
もういいだろと照れ笑いを浮かべつつ
松本くんの手から雑誌を奪い取って寝室に投げる
…ホントはそう
みゆちゃんに似ている、そう思わず買ったもの
それは同時に元カノと似ているということだった
みゆちゃんが入社して俺がいる部にきた時
似ていると思った、見た瞬間から…
見た目もさることながら性格も似ていた
でもやっぱり元カノとは違くて
そうこう思ってる内に、徐々に彼女を気になりだしたんだ
いくら考えても元カノはもう過去の人だから
もう終わったことだから…
未練がましく思っていても新しい人が傍にいれば変われる
そう思って…新しい恋をと思っていたのに
結局俺は元カノから離れられていなかった
「櫻井さんて今彼女いないですよね?」
「いない、けど…」
「安藤さんに告白しないんですか?」
「え…」
「別に社内恋愛はいけないわけじゃないし…
その人も櫻井さんに気があるんですよね?」
「た…ぶんな」
真剣な目を向けられていた
笑っている時との差がありすぎて少し怖い
茶化せない雰囲気に俺はたまらず口を割った