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トクベツ、な想い

第8章 8






部屋の前で足を止めるとドアをトントンと叩いた

俺の部屋に潤が来た時もそう
これが自分達が来たという合図になっていた



「思ったより早かったですね」



ドアを開けながら慣れたように中に招き入れてくれる

遠慮せず入り靴を脱ぐ



「意外と早く進んでさ…てかなんでエプロン?つまみ買ってくって言ったじゃん」



前を歩く潤は紺色のエプロンをしていた

楽しそうな笑みをちらつかせキッチンへさっさと入っていってしまう


リビングのソファの前にあるテーブルに袋を置いてキッチンに目を向ける


なんか作ってんな…いい匂い


カバンを適当にラグに置いてジャケットを脱ぎ、ソファの背もたれにかけてから覗きに行ってみた



「ふふ、座っててくださいよ…」


「…気になる」


「もうできますって」


「…はい」



大人しくソファに戻った

ついつい構ってもらえないことがつまらなくて
袋から買ってきたものを出し、ビールの缶をプシュッと開放してしまう



「あ、先輩」



皿とグラスを持ってこっちにきた潤が軽く睨んでいた



「まだ座ってないでしょー」


「すんません松本さん」



歳は俺の方が上なのに飲みを重ねていく内
潤には逆らえなくなっていた

もちろんふざけて、だけど


コトッと皿をテーブルに置き
エプロンを脱ぎながら、ソファに座る俺の横に潤が腰掛ける

持ってきてくれたグラスにいつも通り注ぎあって乾杯した



「っあー…」


「しみるー」


「おっさんじゃねぇか」


「翔先輩が移った」



ニカニカ笑う顔が俺の今日1日の疲れをふっ飛ばす

この顔が見たくて、誘うのは俺の方が多かった

それを潤がどういう風に思っているかは分からなかったけど…
会社じゃ会わない時だってあるからこの瞬間がすごい嬉しくて


あの時連れ戻せて良かったって本気で思うんだ



「これ何パスタ?」


「アラビアータ
美味しいかは分からないですけど、勉強中なんで」


「それって辛いんじゃなかったっけ?
…潤苦手なんじゃ…」


「まぁ…でも辛さは控えめに作ったんで大丈夫です
先輩好きかなーって…挑戦ですよ」



相変わらずけなげな…


潤の部屋で飲む時は、たまにだけど
こうやって手料理を振る舞ってくれた


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