トクベツ、な想い
第8章 8
「…突然だなー…」
そう苦笑して止まっていた指を動かした
グラスに注ぎながら少し躊躇っているように間を置く
その間、潤も口を開かなかった
「…まだだよ
まだなんの返事も出来てない
何度かメールで誘いがあっても、行ったり行かなかったりで…何も言えてない」
「……待たせすぎですよ
返事する気あるならしないと…」
「分かってるけど…まだ、相談されてんの…?」
「まぁ…」
このまま返事のことは
自然になくなってくれればいいな、なんて思ってた
告白されてからずいぶん経ってるから諦めてくれるかなって
でも諦められないみたいで誘いをしてくる
もはや"良い返事"なら、ではなくなっていた
食事に行った時は返事のことは話題に出ないから…出せないのかもしれないけど
それに甘えてただの食事で済ませることが多かった
高級レストランではなく普通の居酒屋に行くようになったのは
潤がまだ相談役としていたからだったんだな
「安藤さん、他の部署の人から告られたみたいですよ?」
「…まじ?」
「昨日聞きました」
「へぇー…」
「へぇーって…このままじゃ取られちゃいますよ?」
んーと悩んでいるフリをしながらタバコを取り出した
「ここ、僕の部屋です」
「あ、わりぃ」
すぐに元に戻した
潤があまり好きじゃないのでここでは吸わせてもらえない
自然に手が伸びてしまうあたり、まだ完全には止められていない証拠で…
なんか前とは違い最近は、困った時に吸い出す癖がついていた
止めたいんだけど中々…恐るべしニコチン
「…何が引っ掛かってるんですか?」
「え?」
「前に気持ちが薄れてるって言ってましたけど
…諦めずに待ってくれてるんだし、それだったらそれなりの返事した方が…いいんじゃないですか?」
「んー…そうだよなー…」
分かってる、ごもっとも
曖昧にして逃げたってダメだって分かってるんだけど…
「付き合ってみたらまた好きになるかもしれないですよ?」
「そんなお試しみたいなことできっかよ」
「お金持ちですしねーそんなことして別れたら何をされるか…」
「おい、応援してんじゃなかったのかよ
変な恐怖心植え付けんな」
「ふ…すいません」
「…笑ってんじゃん」