テキストサイズ

家政婦の水戸

第12章 さようなら水戸さん

 庭へ出るガラス窓を開け、転がるように出てきた。


 紗知の体を抱え、自分の身をクッションにして、人工芝の地面に飛びだした。


「水戸さぁーん!」


 大神が庭まで入ってきた。


「もうすぐ、救急車が来るわよ」とおばさんが、教えてくれた。


「水戸さん、大丈夫? この子は任せて」


 大神がしゃがんで、紗知の体を抱える。


『まだいる』


「え!?」


 一瞬、まともに言葉を発したような気がした。


 水戸さんは、両足に刺したボールペンを、グッと深く押し込んだ。


 姉の恵実が2階にいる。


 水戸さんは、踏ん張りがきかない足に力を入れて、一歩ずつ家に入っていく。


「水戸さん」と大神が呼ぶ。


『ま゙』


「あんたは、止めたって絶対に行くでしょ。雇ってくれたご主人のために、家政婦としてじゃなく、家族のつもりで……絶対に戻ってきてよ」


 水戸さんは、笑顔を見せた。


 その時ばかりは、生きた人間の顔になった。


 燃え上がる炎の中に、己の体を犠牲にしながら、変わり果てた家の中に足を入れる。



ストーリーメニュー

TOPTOPへ