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家政婦の水戸

第12章 さようなら水戸さん

 火は、階段をも飲み込んでいた。


 灼熱の階段を1段ずつ、上る。


 途中、踏ん張れずに、足を滑らせた。


『っ!!』


 たまらず倒れ込んだ。


 足を見ると、くるぶしまで引火している。


 水戸さんは足に手を触れた。


 なにか、ヌチャッとしたものが手につき、そこにまた火がうつった。


 それは、油だった。


 何者かが侵入し、油をまいて、火をつけたのだ。


 炎と煙が絡むなかに、毛と皮膚が焼ける匂いがまざる。


『く゚……』


 水戸さんは、爪を立て、這うようにして階段を上がる。


 一気に不安がよぎる。


 恵実に、万が一のことがあったら……。













 羊に怒られる。


 いや、それが怖いからではない。


 水戸さんにとって、山野一家は大事な存在。雇い主という意味ではない。家族だった。


 自分のような異様な存在を、快く受け入れ、たくさんの仕事を与えてくれた。


 自分もその思いに、裏切ることのないよう、一生懸命に家事に尽した。


 こんな惨事を起こしたことは、自分のミス。水戸さんは、自分を責めた。


 自分のことは、いい。


 せめて、恵実に生きていてほしい。



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