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家政婦の水戸

第12章 さようなら水戸さん

 炎に肌を炙られながら、水戸さんは階段を上がりきった。


 肉は焼け、土色の汁が溢れ出る。


 それでも、水戸さんの目は、前しか向いていない。


 足が千切れようが、皮膚が焼け崩れようが、そんなことはどうでもいい。


 恵実を助ける。


 山野家の人を、一人たりとも欠けさせない。


 足は火に包まれ、熱は骨にまで達していた。


『だ゚し"が~でる゚(しっかりしろ、私の足)』


 死なないで……死なないで……と、何度も心で叫びながら、両手の力だけで前に進む。


 だが、このままじゃ、ダメだ。


 恵実を抱えては歩けそうにない。


 下手をすれば、恵実に自分が抱えられて出る可能性がある。


 いや、自分を嫌っているから、見捨てていくことも考えられる。


 それだったら、それでいい。恵実が助かってくれれば……。


 水戸さんは燃え上がる床の上で、仰向けになった。そして、両手を前に出して、上半身をおこした。


 その状態から……立ち上がった。


 もう体はボロボロだ。あと、2日もたない。それでも、立ち上がった。


『ガァーーーーッ!!』



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