無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　玉ねぎをみじん切りにする。思いっきり目を見開いて、飛び交う玉ねぎの微粒子をすべて眼球で受け入れているかのようだ。


　まばたきひとつしない。しみないのか？


　みじん切りにした玉ねぎを炒め、かるく塩胡椒で味をつける。


　弱火にしたまま置いて、牛脂の塊をみじん切りにした。


　それを玉ねぎに混ぜ、軽く炒めたら、すぐにボールに移した。芳ばしい香りが、食欲をそそる。


　なんだろう、これだけで、もう美味そうだ。


　合挽き肉にナツメグとパン粉を練り入れて、そこに生卵とミルクと炒めた玉ねぎを入れてこねる。


　俺は思わず、水戸さんの手際のよさに見とれてしまった。


「水戸さん、さすが家政婦さんですね、動きにそつがない」


『たﾟへ』


「いえ、ただの家庭料理ですよだって」


「紗知、昨日今日で、お前の耳になにがあった？」


　そうしている間に、恵実が帰ってきた。


「ただいま！　さぁ、水戸さんより美味しいの作るよ!!」


　水戸さんは、すでに丸めて空気抜きをしている。


　両手の間に、まるでボールのように、こねた肉が跳ねる。


　人数分の、形を整えたひき肉をトレイに並べ、ラップをかけ、冷蔵庫に入れた。


　水戸さんは、余ったみじん切りの玉ねぎを炒め、ブイヨンを溶かしたスープに入れた。


　恵実、もう作らなくていいよと、本当はいいたい。