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家政婦の水戸

第3章 水戸さんのお留守番

 サービスならつけてもらおう。


 水戸さんは顔を突き出す。


 販売員は丸い瓶の蓋を開け、白いクリームを指にのせた。


「では、少しお付けしますねぇ」


 顔に触れる。だが、弾力がなく、冷たい。


「奥様、冷え性ですか? 冷え性のお肌には……」と言いかけた販売員は、水戸さんの顔を見て絶句した。


 右目の眼球に、ハエが止まっている。


 それなのに、水戸さんは、まばたきひとつしない。


「お、お、お、奥様……瞳に……む、虫が……ついて……」と販売員は、水戸さんの目を指差して指摘した。


『ま゚』


 水戸さんはゆっくりと右手をあげ、指を2本立てると、ハエがいる目にぶちこんだ。


「ーーっ!!」


 販売員は思わず、身を竦める。


 指は第二関節まで、入り込んでいた。


「おーっ!! おくさまーーっ!! き、き、気を確かにーーっ!!」


 映画やDVDではなく、リアルタイムの生で見た奇行に、声も掠れる。


 水戸さんはゆっくりと、指を引き出すと、潰れたハエと一緒に、ドロッとしたものが絡み付いた白い玉をも引きずり出した。


「きぃーーーやぁーーーっ!!」 


 黒板を引っ掻いたような声を出し、販売員は走って去っていった。




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