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家政婦の水戸

第1章 家政婦、その名は水戸奈津子

「あの、さっそくで申し訳ないのですが、夕食をお願いできませんか?」


『ま゚』


 これは「承知しました」だろうか?


 水戸さんは黒い大きなカバンを持って、浴室の方を指差した。


『る゚』


 なんて言ってる?


 言葉の壁が分厚すぎて、俺には対処しきれない。


「お父さん、水戸さんは動きやすい服装に着替えたいから、あの場所を借りていいかって、聞いてるのよ」


「お前、いまのでよくわかったな。言葉の尺が違いすぎるのに」


 水戸さんは、左手の指をわっかにしてOKサインを、紗知に出していた。


 玄関先の短い時間で、どんな意思の疎通が、出来たんだ?


「あ、そうですか。じゃ、あの奥、お使いください」


 そう言うと、ヨタヨタとカバンを持って入っていった。


 まあ、せっかく来ていただいたんだから、邪険にはせず、今日は出来ることはやってもらおう。


 なんなら、紹介所に連絡して他の人に替えてもらおう。


 たしか、厚生労働大臣許可と名刺にあったが、あんなのも認めているのか?


 私は一掴みの不安とともに、紹介所のパンフレットをまた読み直した。



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