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「うらやま」

第1章 裏山の記憶

アパートの裏手にあるのでぼくらはそこを「裏山」と呼んでいた


山の本当の名前は知らない


近所のこどもたちといつもそこで遊んでいた


幼稚園のときは山の手前の広場でかんたんな野球ごっこしたりサッカーごっこしたりしてた


田舎なんでこどもなんて5~6人しかいない


だからいつも3対3のチームわけだった


こどものごっこ遊びなんで満塁なんてならないんだけど、たまに満塁になると「おれ、代打ぁーッ!」って大声で叫んでさっき打ったやつがまた打席に立つ


サッカーごっこのときは3人でどんどん攻めて、ピンチになったらいちばんゴールに近くにいたやつが「おれ、キーパーぁ~ッ!」って叫んでゴールキーパーを兼任する



まぁ田舎の遊びなんてどこも変わらないと思う


 
みんな近所のこどもばかり、ほとんどはうちのアパートの住人だった



なかでも「アキちゃん」は同い年で、幼稚園もおなじクラスだったのでいちばん仲がよかった


いつもアキちゃんと呼んでいたので本当の名前を知らない
アキオだったのか、アキユキだったのか
小さいときのともだちなんてそんなもんだ



アキちゃんには3つ歳上のお兄ちゃんが居て、アキちゃんちにいくとウルトラ怪獣の人形がたくさんあった

ボクんちもウルトラ怪獣はいくつか持ってたけど、アキちゃんのお兄ちゃんは地球防衛隊のメカを持ってたのがうらやましかった


たまにお兄ちゃんが居ないときに勝手にメカを持ち出して砂場で遊んでいたら、すぐに見つかってめちゃくちゃ怒られた


他にもミニカーのくるくる回って降りてくる「パーキングタワー」なんかも持っていたのでボクはアキちゃんちのこどもになりたかった


当時はテレビで川口浩のジャングル探検隊のシリーズが始まった直後ぐらいの頃


「裏山」はボクらにとって絶好の「ジャングル」だった!



小学校に入ると裏山は学校の決まりで「立ち入り禁止」になってしまった



学校のこどもたちはみんなフェンスから向こうには行かなかった



でもボクやアキちゃんからしたら住んでるアパートのすぐ裏なんで、クラスのみんなに見つからないようにこっそり裏山に入ってはターザンごっこをしたり、探検隊ごっこをしてた




小学1年生の秋、



アキちゃんはその裏山で事故死した・・・

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