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「うらやま」

第1章 裏山の記憶

こどもたちのあいだで裏山は昔から怖がられていた


野犬も出るし、崖もある

白いニンゲンってオバケも出るって言われていた



たしかに当時から早朝リトルリーグの練習に向かうこどもが野犬の集団に咬み殺されたり、崖が崩れて何人かが生き埋めになったり事故はあった



でもクラスが違ったり、学年が違ったりでボクにはあまりピンときてなかった

たぶんアキちゃんも一緒だと思う



他のこどもたちはあまり裏山に立ち寄らないので危ないかもしれない

でもボクとアキちゃんは毎日のように遊んでいた場所だったので、ここが崖で危険、ここは底無し沼だから近寄らない、ここの洞穴は上から降りる、なんて感じであたりを熟知していた


だから他のこどもならともかく、ボクとアキちゃんが事故に遭うとは思えなかった



アキちゃんは足を滑らせて、川に流されてしまったそうだ


その日は日曜日でボクは家族で大阪の親戚の家に遊びに行ってる日だった



お葬式はアパートではやらず、近くの公民館でやった


周りが泣いていたのでボクも泣いていたと思うけど、実は小学1年生のときなので「死」というものがあまりわかってなかった



アキちゃんちの家族はその後すぐに引っ越ししてしまった



クラスの誰よりもいちばん仲が良かったので、ボクはぽっかりと穴があいたような感覚になってしまった



その後も裏山では事故が何回もあって、一年にひとりぐらいは亡くなってたように思う


その都度、体育館に集められ、立ち入り禁止を一層つよく言われ、黙祷する



こんな光景が何回かあった




といってもこどもなんで、やっぱり裏山には遊びに行ってたし、探検ごっこも続いていた



じっさいボクも野犬に追いかけられた

そのときは崖から飛び降りて逃げ切った




また噂になってたオバケ「白いニンゲン」も山の中の一軒家でともだち何人かで見たことがあった



裏山はそういった意味では「謎」や「神秘」「ミステリー」な要素があって、


こどもたちのなかでは「特別な場所」だった



アキちゃんの事故に関してはボクは大阪の親戚んちに居たので詳しい状況はあまりよく知らない


川での事故とは親から聞かされたけど、じゃあ誰と遊んでいたのかとか、誰が見つけたのか、誰がオトナに通報したのかとか、なにも知らない


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