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桜 舞う

第1章 桜 舞う

「もも、戻ります」
「そうか。じゃあ頼む。あぁ、急がなくて良いぞ。ゆっくり飲んで身体暖めてから来い」
「は、はい」

私の返事に課長は軽く頷くと、座っていた椅子を戻して入り口近くの私の方へ回って来た。
そして立ち止まる。

「朝からありがとう」
「あ、い、いえ……」


課長の笑顔、最強です。
そんなにじっと見つめられると、私の心臓壊れます。

今にも飛び出しそうな心臓に、耐えられなくなって目を伏せた。

課長が一歩私に近づいて、止まる。

な、なに?

緊張して身体に力が入った。

ポンッと頭の上に降ってきた課長の手。小さい子にするように頭を撫でられて、肩から力が抜ける。
すると、上で課長がクッと押し殺すように笑った。

えーっと……?

頭を押さえられたまま上目遣いに見上げると、思いの外楽しそうな課長と目が合った。

「食事、希望はあるか?」

……ホントに誘う気?

「い、いえ特に」
「酒は飲めたよな?」
「す、少しなら」

私の返答に課長が笑う。

「忘年会で山田と差しで飲んでて少しか?」

なっ何で課長がそれ知ってるの?
四年先輩の山田さん(男)はお酒好き。忘年会の時、偶然地元が一緒だと分かって二人で盛り上がっていたけれど。課長とはテーブルが違ったはず……

「まぁ良い。特に希望がないなら私が選んだ店で良いな?」
「……は、はい」

本気だ、課長。

「食事の件は追って連絡する。しっかり暖まってろ」

そう言うとポンポンと頭を撫でて課長が出ていった。
最後まで笑顔で……

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