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桜 舞う

第2章 おまけ


「じゃあ平坂、遅くなるようだったら交代を寄越すから」

真っ直ぐに俺を射抜くような視線。

「はい」

一つ頷き、ビニールシートの上へと上がる。

「あの、ありがとうございます。く、靴、靴脱がない方が……足、冷えると寒くなります」
「えっ?そうなの。」

急いで靴を履いていると

「はい。……よ、良かったら、これ使いますか?」

そう言って酒々井がポケットからカイロを取り出した。

えっ!
それ、俺にくれんの?

喜んで手を伸ばしそうになって、ふと感じた鋭い視線。
課長が無言で俺を見下ろしていた。
その視線に圧を感じる。

……
あー、やっぱり?
そういう事……だよね

眼力鋭い課長に俺が勝てるはずもなく。
諦めて酒々井にあげようと買ってきたカイロを自分で使う事にした。

「ありがとう。でも大丈夫。買ってきたから」
「ぁ、はい……」

明らかに落ちた声音。

あぁ、違う。違うんだよ!
俺は酒々井の持ってたカイロが欲しい。
新しいのあげるから、そっちを俺に頂戴よ。

願いを込めて見つめても、手元のカイロに視線を落とした酒々井に気付いてはもらえない。

「行くぞ、酒々井」

俺の思惑を打ち砕いた課長が淡々とした口調で酒々井の手を取った。

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