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桜 舞う

第2章 おまけ

酒々井の前では笑ったことがなかった。

『良いか、二度と笑うな。仕事中は絶対だ』
入社して一週間、直属の上司に呼び出され命じられた理不尽な要求。
始めは何を言われているのか分からなかった。
しかし実践してみると、やたらと絡んで来ていた女子社員達が段々寄り付かなくなった。大幅に能率が上がった事に、そこから仕事柄みの場で笑う事を一切止めた。
だからと言って、四六時中仏頂面を貫いてたつもりもないが。驚かれるのも仕方ない。
「どうした?飲まないのか?」
敢えてそこには触れず、そのまま聞くと
「いえ、あの、か、課長が笑ってるの初めて見ました」
実にストレートな答えが返ってきた。
でも、その直後明らかに『しまった』という顔になられ、少なからずショックを受ける。
「まぁ、普段笑うことはないからな」
知らず落ちていた声音。
「あっいえ、し、仕事中ですから。仕事はマジ、メに……」
途端に焦った様にワタワタし始めた酒々井の慌てっぷりが可愛くて。さっき落ちた気分はあっさり回復。それどころか目を細めて笑ってしまっていた。
「良いんだ、酒々井。気にするな」

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