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桜 舞う

第2章 おまけ

また驚いた顔で酒々井が俺を凝視してくる。
そんな様子さえ、愛らしい。
「私は社内では笑わないことにしてるんだ」
自然に浮かんでいた笑みに
「……は、い」
惚けた様に頷く酒々井。
「入社してすぐに、上司に笑うなと言われてな」
「ど、どうしてですか?」
大きな目をますます大きく見開き首を傾げられ、思わず苦笑が漏れる。それは自分で説明するのもおかしな理由。
「お前が笑うと女子社員が仕事しない、だそうだ」
だが、酒々井には得心した様に大きく頷かれてしまった。

……ソレは、少なくとも酒々井に嫌われてはいないと捉えても良いだろうか

「そ、それからずっと笑ってないんですか?」
「笑ってない」
言い切った俺に酒々井は実に嬉しそうに頬を緩めた。
その柔らかな表情に彼女に嫌われてはない事を確信する。
ふわふわと笑う酒々井が可愛いくて。
「それ以降、社内で笑ったのは酒々井の前が初めてだな」
抑えようにも口角が上がってしまう。
笑顔のまま見詰めていると、突如酒々井の動きがぎこちなくなった。
じわりと頬の赤みが増して。
逃げる様に視線を反らし、手で顔を仰いでみたり、机の端をなぞってみたり、落ち着かない。

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