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桜 舞う

第2章 おまけ

後日、山田が『飲み仲間が出来た』と嬉しそうに周りに話していたのは知らないと見える。

「忘年会で山田と差しで飲んでて少しか?」

また零れてしまった笑みに酒々井も同じく瞬きを繰り返す。

俺が知ってて驚いた?

目の前の酒々井は今までになくくるくると表情を変え、可愛いらしい。

「まぁ良い。特に希望がないなら私が選んだ店で良いな?」
「……は、はい」

驚いた顔のまま小さく頷いた酒々井に口角が上がる。勢いで押した感はあるものの、同意を得る事は出来た。

「食事の件は追って連絡する。しっかり暖まってろ」

置いたままだった手で頭をポンポンと撫で、俺は笑顔で会議室を後にした。
幸いな事に廊下に人の気配はない。緩んだ顔を晒さずには済んだが、念のため片手で口元を覆い、まっすぐ非常階段へ。重い扉を開け、ヒヤリとした空間へ滑り込んだ。

二つ下のフロアへ階段を下りながら思い出すのは焦った様な、驚いた様な酒々井の顔。俺とは真逆、酒々井はいつも柔らかな笑顔で人に対する。でも、その実周囲とは距離を取る、酒々井のそんな顔は初めて見た。

彼女の殻を少しは揺すぶる事が出来ただろうか……

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