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桜 舞う

第1章 桜 舞う

「じゃあ平坂、遅くなるようだったら交代を寄越すから」
「はい」

平坂さんが靴を脱いでビニールシートの上に上がった。

あ、靴……

「あの、ありがとうございます。く、靴、靴脱がない方が……足、冷えると寒くなります」
「えっ?そうなの。」

慌てて靴を履いた平坂さんに

「はい。……よ、良かったら、これ使いますか?」

ポケットの中からカイロを取り出す。左右それぞれ一つずつ。

「ありがとう。でも大丈夫。買ってきたから」
「ぁ、はい……」

そうだよねぇ。人が使ってたのは嫌だよねぇ……

そう思いつつも少し傷つく。
私のは、いらないよねぇ……なんて、被害妄想。

「行くぞ、酒々井」

受け取ってもらえなかったカイロを見つめていると、課長に手を引っ張られた。

「あ、はい。平坂さん、ありがとうございます」

歩き出しながら振り返ってもう一度お礼を言う。コンビニ袋を覗き込もうとしていた平坂さんが私の言葉に顔を上げた。少し笑って左手を振ってくれる。

ホッとした。あんまり怒ってないみたい。

課長は来た時と同じペースでガンガン歩く。女子の中では大柄な私でも課長と比べると、ねぇ……。当然小走りになる訳で、手を掴まれてるから転ばないよう、だだ必死。

公園を出て信号待ち。

「悪かった」

はい?

突然謝られて見上げると

「入社してから毎年、朝から場所取りしてくれてたって」

見下ろされて目が合った。真っ直ぐ見つめてくる射るような視線。

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