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桜 舞う

第1章 桜 舞う

「……はい」

やっぱり知らなかったんだ。
私、課長の部下ですよね?
……あー、いなくて困るほどの仕事はしてないってことか。

自分で気付いて、一人へこむ。
強い視線に耐えられなくなって、課長から足元へ目線が落ちた。

「……おい、暗くなるな。何かまた悪いこと考えてるだろう」

また?

「平坂にカイロ断られた時もだが、酒々井のマイナス思考は考えものだ」

あぁ、また、ね。
でも嫌だから断られて、仕事に支障ないから気付かれなかったんでしょ?

「こんだけ寒けりゃ平坂だってカイロぐらい買うだろう」

それはそうかもしれないけど……

「俺は昨日は直帰で、今日直行。さっき社に戻って来たんだ。去年は出張中。この時期、忙しくてほとんど出社して来ないのはお前も知ってるだろう」

確かに……最近の課長の予定、社外が多い。

「じゃなきゃこんな時間まで気付かない訳がない」

…………
それって出社して来てすぐに気付いてくれたってこと?そうだと嬉しいんだけどなぁ……

……あ、れ?
もしかして、私が気にしてること、課長に気付かれてる?
何で?

「行くぞ」

ぐいっと手を引かれ、顔を上げると信号は青に変わっていた。

「酒々井はどうしてそう自信がないんだ?」

相変わらずズカズカ進む課長。
手はずっと掴まれたまま。

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