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桜 舞う

第1章 桜 舞う

「美人だし、背が高くてスタイルも良い。外見に難はないだろう。」

……私、美人?
そんなこと初めて言われた。
いつも睨んでるとか、怖いとか、無愛想とかって言われるんだけど。

「仕事だって丁寧で正確だし、何より一緒にやりやすい」

……すごい褒められてる?
一緒にやりやすいって、すごい褒め言葉だよね?

「他のやつらもお前がいないのに困って、何度も差し入れ持って聞きに行ってたそうじゃないか」

……そう、だったの?
それで何回も来てくれてたんだ。
……確かに色々仕事のこと聞かれたかも。

「それなら交代すれば良いものを。この寒い中、女の酒々井一人で場所取りとかあり得ん」

後半は独り言のように呟いて、課長はドンドン進む。
手を引かれて走りながら、その横顔を斜め後ろから見上げた。

切れ長の目は鋭くて、ヒョウとか猫科の猛獣を連想させる。精悍な顔は笑うと見惚れるくらいの格好良さだって噂だけど、私はまだ見たことがない。
真面目な顔かしかめっ面で電話片手にパソコンに向かってるイメージ。
それはそれですごく格好良いんだけど。

今はもちろん渋い顔。

勝手に褒められた気分になって、上向きかけてた気持ちが下降する。

忙しいのに帰社してすぐにこんなこと、面倒だもん。そりゃ渋い顔にもなるよね。

…………

「すみません」

口を吐いて出た言葉は雑踏の音に紛れ、課長には届かなかったみたいだった。

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