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桜 舞う

第1章 桜 舞う

前を向いたままの課長に手を引かれて歩く。

悲しくなって視線を落とすと課長に掴まれた手が目に入った。
実際はそう強くないんだけど、手首をしっかり掴んでるように見える。節張った長い指、大きな手。

何で手、掴んだんだろう……

もうすぐ社に着くし、離さなくて良いのかな。
みんなに見られても課長は困らないの?

私はちょっと後が怖い。
同じ課の先輩たちは事情を察してくれると思うけど……

さっきはあんなに見透かされていたのに、この悩みには気付いてもらえないみたい。

間もなく社に着き、中に入ってエレベーターを待つ。その間も課長に手を離す気配はない。

あぁ、受け付けの先輩の視線が刺さる。
来週から出勤するの憂鬱だなぁ……

ますます深く俯いて、引かれるままにエレベーターに乗って降りる。始終無言の課長と廊下を歩き、部屋に通されてからやっとそこが自分の課のフロアじゃないことに気が付いた。

暖かい……ここ、会議室だ。

「少し待ってろ。何か熱いもの持ってくる」

やっと手を離した課長がそう言った。

「あっ自分で」
「お茶か紅茶で良いな。良いから、お前はここで待っていろ」

有無を言わさない強い口調。椅子を引いた課長に強引に座らせられた。
厳しい顔のまま出ていく課長。
呆然と見送って。

部屋、暖めてくれてたんだ……

課長の心配りを嬉しく思いつつ、不安になる。

私、仕事に戻らなくて良いのかな……

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