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桜 舞う

第1章 桜 舞う

驚いて顔を上げ、初めて見る課長の笑顔に固まった。

だって、ホント、びっくりするぐらい爽やかで、優しい表情だったから。

う、わー……かっこ良い……

「どうした?飲まないのか?」

笑顔のままそう聞かれ

「いえ、あの、か、課長が笑ってるの初めて見ました」

思っていたことが、ついそのまま口に出た。

や、しまった……

「……」
「……」

広がる、沈黙。
課長の顔から笑みが消える。

気まずい。

「まぁ、普段笑うことはないからな」

うっ……

自嘲するような物言いが刺さる。

「あっいえ、し、仕事中ですから。仕事はマジ、メに……」

あぁ、いつもにも増して吃り過ぎ。

必死に取り繕おうとして、却って動揺を晒してしまった。そんな私をじっと見ていた課長がくっくっと笑いだす。

「良いんだ、酒々井。気にするな」

へ、なんで?
課長、笑ってる?
気にするな?

「私は社内では笑わないことにしてるんだ」

優しい笑顔で続けられて

「……は、い」

思わず見惚れて、しまりのない私。

社内、だけど。ここも一応……
あれ……何で?
ちょっとドキドキしてきた。

「入社してすぐに、上司に笑うなと言われてな」
「ど、どうしてですか?」

頭を通さず反射的に聞き返した私に、課長が苦笑い。

「お前が笑うと女子社員が仕事しない、だそうだ」

あぁ、分かる。それ。
見惚れちゃうもん。
仕事出来ない。

課長の言葉に一人納得。

そんな理由で笑うの禁じられるなんて、新人の課長も、かっこ良かったんだろうなぁ……

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