君がいるから
第2章 きっかけ
今年もまた
俺の「教育期間」が始まった。
今年の担当は1人。
いつも3人は割り当てられるから、少々肩透かしを食らった気分…
まあ、そんな事は悟られないように
部長の前に立って、話を聞いている。
「櫻井、今年も頼んだぞ」
温和な小太りの部長は、いわばこの課の癒し系。
いつもニコニコしていて信頼も厚い。
そのくせ、決断力もあって人を動かすのが上手い。
…容姿はともかく、人間として尊敬に値する人物だった。
「分かりました。…1人で良いんですね」
一応、確認しておく。
後から新人を増やされると、自分の立てたスケジュールが崩れてしまうから。
「うん。今年は1人。…彼は君に任せたい」
「…?」
部長の言葉につい首を傾げる。
そんな俺を見て、部長は目尻の皺を深くした。
「集中して育ててみて欲しいんだ。…なかなか面白そうな子だから」
「…部長がそう仰るなら」
どんな新人だか見当もつかないけど
部長がそう言う時は、良くも悪くも何かがある。
悪い方に当たると、とんでもないトラブルメーカーになるが、良い方に当たれば強い戦力になっているから。
この人、人を見る力はすごいのに、良いか悪いかまでは分からないんだよなぁ…
「当たり、だといいんだけどねぇ」
…自分でもそれは分かっているからか、部長は何とも言えない笑顔で俺を見た。