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君がいるから

第2章 きっかけ

入社式では10人程の新入社員がいた。

そこから各部署へ配属される前に、全体的な机上研修がある。

だから、どんな新人がここに来るのかは
入社から2週間後だ。

それまでに、教育内容を考えて置かなければいけなかった。






「教育って大変だね」

おしぼりの袋をいじりながら、智は眉を下げた。

「毎年だから、慣れては来たけどね」

「年々厳しくなって?」

クスクスと笑う。

会社が終わって、1週間振りの智との食事の会話は
大体会社の話が多い。

「わざと厳しくしてるわけじゃないんだけど…」

ただ、仕事をするからにはキッチリとしたいだけだ。

それなのに

ちょっと注意しただけで

怖い、とか鬼だとか

学校じゃないんだから甘やかす必要もないし

くだらない言い訳されたら

そんなもんはいらない、と一蹴する。

…社会人としての常識だと思うんだけどなぁ

「翔ちゃん、本当は優しいのにね」

「だろ?泣きそう、俺」

「良く言うよ」

泣き真似する俺を楽しげに見つめる。

「でも、怒ると怖いよね」

「え…」

智はポテトをつまんで口に放り込むと

「昔から、だけどさ」

俺から視線を外して、遠くを見た。

「翔ちゃん、怒ったり呆れたりすると喋らなくなるの。いっそ怒鳴ってくれた方がいいのに、完全な無表情になるんだよ」

「…そうだっけ?」

「で、取り繕って笑ってくれても、目がね…物凄く冷たいの。あれは本気で怖い」

ここで、再び智が笑った。

「先生だって、凍りついてたもんね」

「……。」

思い当たりがありすぎる。

親にさえ「お前が怒るとメンドクサイ」って言われてるくらいだ。

「でもさ、本当は凄く優しくて面倒見がいいんだよね」




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