
神様の願い事
第7章 謎のオバケ
よかった、居なかった。
いや、よかったじゃないんだ。
おかげで抗議をし損ねた。
翔「あ...?」
暗闇を、竦んだ足でぽてぽてと歩いていると、目の前に見慣れた人影があった。
翔「...こんなとこで何してるの?」
智「翔くん」
シャッターの降りた店の前で、智くんがポツンと立っていたんだ。
智「雨宿り」
翔「雨宿り?」
智「急に降ってきたから。...って傘持ってないの? びしょびしょじゃん」
翔「え」
急に恐怖が襲って、俺は尻込みをして舞い戻って来たんだ。
それでぽてぽてと歩いているうちに、どうやら雨が降ったらしい。
翔「あ...、降ってた? 気付かなくて(笑)」
智「気付かなかったの? どしゃ降りだよ?」
その言葉に見上げてみれば、智くんの言う通り土砂降りだった。
こんな雨にも気付かないなんて、どんだけビビってたんだ俺。
智「こんな時間にどうしたの? 出掛けてたの?」
お前も入れと言わんばかりに、智くんは横にずれてひとり分の場所を空けてくれる。
だから俺は、その隣にスッと入って智くんと肩を並べた。
翔「そっちこそ。こんな雨なのに」
智「あ~、なんか寝れなくて。酒でも呑むかと思ったら冷蔵庫空っぽでさ」
翔「ああ、それ酒?」
智「うん」
智くんの手にはビニール袋がぶら下げられてて。
近くだから降る前に帰れるだろうと出てきたものの、予測を誤り急に降られたんだと智くんは話す。
智「...俺は近いからいいけど、翔くん歩いて帰るつもりだったの? タクシーの方がいいんじゃない?」
翔「あ...、確かに。歩くにはちょっと遠いね(笑)」
智「俺が免許持ってたら送ってあげられたんだけど」
翔「いいよそんなの(笑) 俺も寝られなくてさ。散歩してただけだから...」
智「にしちゃ、遠すぎない?」
翔「健康的でしょ(笑)」
智「うん(笑)」
そのポツンと立つ姿を見つけた時には心臓が止まりそうだった。
その時は恐怖で震えきっていたし、ほっとしたのもあるんだけど。
智「そうだ。さっきの電話、なんの用だった?」
それと同時に罪悪感に溢れてしまって。
ほっとしたのと、ドキッとしたのと、チクッとしたのとで。
智「...翔くん?」
俺に合わせてくるその視線から逸らせないし、言葉も出せないんだ。
