
神様の願い事
第7章 謎のオバケ
翔「...くしゅっ」
急にブルブルと身震いしたと思ったら、くしゃみが出てしまった。
智「大丈夫? 寒い?」
翔「や、大丈夫。鼻がムズムズしただけ」
智「そうは言ってもびしょびしょだし…。風邪引いちゃうよ」
心配そうに覗いてくるその目に申し訳なさを感じて、俺の目は彷徨うんだ。
智「やっぱタクシー捕まえたほうがいいよ」
翔「そ、そうするわ」
そう言って、俺より先に辺りをキョロキョロと見回した。
智「...夜中だし、なかなか居ないね」
だけどすぐに動きを止めて、ほんの少し落胆したような声を出す。
智「小降りになってきたし、俺んち、来る...?」
翔「え?」
智「どっちにしろそのままじゃ乗れないでしょ? 着替え、貸すよ」
確かにこんなズブ濡れでは、タクシーに迷惑だ。
だけど。
翔「や、もう止みそうだし大丈夫。歩いて帰るよ」
智「駄目だよ」
一歩踏み出そうとしたその時、智くんは俺を引き止めた。
智「...そんな濡れてちゃ冷えるよ。家に着くまでに風邪ひくから」
翔「智くん...」
引き止めたのは言葉だけじゃなくて。
しなやかな手を伸ばして、俺の腕を掴んでる。
智「ね? 俺んちすぐそこだから。行こ...」
翔「うん...」
後ろめたい事この上ないけど。
だけどそんな顔を見せられちゃ、俺はその手を振り解けない。
智「ちょっと走ろうか」
翔「うん」
智「行くよ? せーの...」
振り解く筈が無いだろ。
だって折角その手を俺に伸ばしてきたんだ。
それなら俺は、掴んできたその何倍もの力で握り返すさ。
智「違っ、右右っ」
翔「ああっ、こっちかっ」
車では通れないような細い道だって、智くんと一緒に走れるんだ。
俺はすっかり智くんを追い抜いて引っ張る方に回ったけど。
だけどその道順を智くんが教えてくれる。
智「しょ、翔くん速いよ(笑)」
翔「だって智くんが濡れちゃうでしょっ」
智「いいよ別にこれくらいっ。だから、もうちょっとゆっくり」
翔「駄目だよ、風邪引くでしょっ」
“お前がな”とボソッと言われた気がするけど。
だけど走ってると楽しくて。
貴方と繋いだ手が暖かくて。
俺は、全力で智くんを引っ張ったんだ。
