
神様の願い事
第9章 ねこのきもち
翔「智くん明日、昼からだったよね?」
「にゃ?」
翔「俺も一緒だから多分その筈だけど...。これ、戻らなかったらなんて説明しようか」
「にゃぅ...」
やっぱり俺の言葉は分かってるんだ。
朝よりほんの少し人間ぽさを取り戻したのか、智くんは落ち込んだ様子を見せた。
翔「ま、まぁ。とりあえず寝よう! 朝起きたら戻ってるかもだしさ」
「にゃ...」
一日で“本当のシアワセ”を手に入れろって方が無理な話なんだ。
仕事も待っちゃくれないし、この先どうなるかなんて想像も付かないけど。
だけど、俺が不安を見せちゃいけない。だって一番不安なのは、間違い無く智くんだから。
翔「ふぅ、あったかいね」
「にゃ...」
翔「大丈夫。俺がちゃんと戻してあげる」
「にゃぅ」
翔「もし...、もし万が一戻らなくても、俺が、一生智くんの面倒みるから」
「にゃ...?」
翔「だから大丈夫だよ。俺がずっと側にいるから、安心して...」
俺と一緒に布団に潜り込んだ智くんは、頭だけをぴょこっと覗かせて俺を見た。
くるくるとした瞳で、只俺をじっと見つめて。
翔「さあ、寝よう。電気切るよ?」
「にゃ...」
朝目覚めたら元に戻ってればいいけど。
全て夢でした、なんてオチでも全然構わないんだけど。
もしこれが本当で、朝起きても戻ってなかったら。
猫の智くんも申し分なく可愛いし、俺が飼えばずっと一緒にいられるし。
ずっと俺の側にいて、毎日一緒に過ごせるけど。
翔「智くんに会いたいな...」
だけどやっぱり俺は、会いたいんだ。
あの声を聞きたいんだ。
ふにゃっと笑ったその顔で、目尻を下げながら俺を見て。
ふふっと笑う声を、聞きたいんだ。
翔「神様、お願いだから智くんを元に戻して...」
祈るべきは神様じゃなくて、あのお爺さんなのかもしれない。
だけど今の俺には、こんな事しか出来なかったんだ。
