おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第18章 平川拓斗という男(その2)。
言葉にする前に、色々と考え込んでしまうんだろうな。それは悪い事ではない。条件反射のように、直ぐに言葉にして後悔する人もいる。口から出てしまった言葉は、無かった事には出来ないのだから。しかし、それで他人と意思の疎通を図れないのは考え物だと思う。
そう言った意味では、AD部に来たのは良かったのかも知れない。考えるよりも感じたままを言葉にする。それだけでいいのだから。
でも、出来れば彼女には、自分の考えを言葉に出来るようになって貰いたいと思う。カワが言っていた、彼女に「自信を持たせる」事。果たして、僕にそれが出来るのだろうか。
そんな事を考えながら電車に揺られていると、森脇さんの身体に緊張が走った。
(え? マジで痴漢!?)
彼女が痴漢されているところを見てみたいと思ってはいたけれど、こんなに早く遭遇するとは思ってもみなかった。
(さて、どうするか?)
彼女が直ぐに僕に助けを求めれば、対処をするのは吝(やぶさ)かではない。僕は俯いている彼女の耳元で「どうかした?」と尋ねる。すると彼女は首を横に振るだけだった。
多分、誰かに何かをされているのは間違いないだろう。その証拠に、彼女は僕のジャケットの胸元をギュッと握り締め、何かに堪えるように身体を強張らせている。