おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第19章 山岡一徹と言う男(その2)。
俺の親父は、下町で小さなバーを営んでいた。無精髭すらもアクセサリーになる、男の俺から見ても色気のある渋い男だ。親父を目当てに銀座から立ち寄るホステスも多かった。母親は親父に群がる女達に勝手に嫉妬し、耐えられなくなって俺が小六の時に離婚。それ以来、俺が高校を卒業するまで、男二人で気安い生活を送っていた。
仕事柄か、客を楽しませる為の話題作りの情報収集は欠かさず、色んな事を知っている親父。常連客の恋の悩み。週末の競馬予想。経済の動き。家庭内の愚痴。客の話題に合わせた親父のトークを目当てに通う客は多く、不景気の時期でも客足が途絶える事はなかった。俺についても、「勉強しろ」等は一切言わず、「興味のある事はとことんやってみろ」と言う放任主義だったが、間口を広げる為に色んな事を教えてくれた。俺は親父を尊敬していたし、大好きだった。ある時までは。
俺は高校に上がると、小遣い稼ぎの為に店を手伝う様になった。大人の世界へのデビューだ。親父に似て、結構イケてる部類に入る俺は、常連のお姉様方にも可愛がって貰った。俺が初めて女を抱いたのも、この時期だった。
相手は七つ年上のお姉様。近所でも評判の"いい女"。美人と言うよりは、そう形容した方が彼女には合っていた。彼女の親父さんは俺の親父の幼馴染で、その親父さんと一緒によく店に飲みに来ていた。彼女とは年が離れているから、一緒の学校に通った事はないが、憧れの人だった。親父同士が仲が良かったのもあって自然と話すようになり、手の届かない憧れの存在から、手を伸ばせば届く身近な存在となった。