おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第22章 川上達哉という男(その2)。
初日に泣いて逃げ出したモリー。俺は翌日は来ないだろうなって思ってた。けど、モリーは出社して来た。普通だったら、見切りをつけそうな物だけど、坂内部長も高槻室長も、モリーを辞めさせる気はないし、辞めて欲しくないみたいだった。俺は「どうしてそこまで?」と思ったけれど、今では何となくその気持ちが分かる。俺もモリーには辞めて欲しくない。色んな意味で。
モリーはやる気がないワケじゃない。やり方が分からないだけだ。一度も水を与えられた事のないカラカラに乾いた、花を生ける時に使う吸水スポンジのオアシス。それも特大の。それがモリーだと思う。水を与えてやれば、やるだけ吸収する。そして、そのオアシスに刺さった蕾を綺麗に咲かせるだろう。唯、彼女はその花の咲かせ方を知らない。俺達が与えた水を花に送り届ける事が出来ない。それが今のモリーだ。モリーが花を咲かせる為に必要なのが「自信」だと俺は睨んでいる。俺はモリーが咲かせる花を見てみたい。だから、自信を持って貰いたい。それには、王子みたいな完璧男の力が必要だと思った。そう言う男に毎日褒められていれば、自然に自信が付くのではないかと思ったから。それで王子には悪いと思ったんだけど嗾けたんだよね。
王子はあれでいて、結構、純情で惚れっぽい。寄ってくる女は数知れず。けれど、王子が振った事は一度もない。相手が勝手に惚れて、勝手に不安になって関係を壊して離れていく。それは仕方が無い事かも知れない。王子は誰にでも優しいから。俺達が彼を「王子」と呼ぶのは、見た目だけじゃなく、誰にでも分け隔てなく優しい所にもある。ほら、公人ってそうスタンスじゃなければいけないでしょ? でも、天然の博愛主義者は、結構な罪だと俺は思う。