おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第26章 痴漢、再び……。
(平川さん……)
今、一番顔を合わせたくない人。だけれども、アタシを守ってくれた人。身体の震えが止まらないアタシの背中をさすってくれ、落ち着かせてくれた。優しく介抱してくれた。アタシは心の中で、平川さんに助けを求める。虫のいい話だ。助けてくれるワケがないのに。だってアタシは平川さんがいない事を確認しているんだもの。大丈夫。我慢していれば、その内駅に着く。アタシが気持ちが悪いのを我慢すればいいだけだ。そう思い、ギュッと目を瞑る。その時だった。
「ちょっと! 足、踏まないでよ!」
女の人のヒステリックな声が響く。そして、その後に続く柔らかい男の人の声。
「すみません。本当にゴメンなさい。ちょっと通して?」
「あ……はい」
「すみません。通して下さい」
男の人の声は、こちらに近付いてくる。その声は、アタシの近くまで来ると、「僕の大切な人から、その汚らわしい手をどけろ」と言って、アタシの身体を弄っていた手を掴んだ。「えっ!?」と思って顔を上げると、普段穏やかな顔が、想像つかないくらいに怒りを露わにした、平川さんが立っていた。二人の男の人の手をしっかり掴んでいる平川さんの手が震えているのは、怒りなのか。
「たまちゃん。僕はこのまま、この二人と降りるから、君は会社に行ってね? 一人で大丈夫かな?」
男の人達に掛けた声とは、全く別人の様な優しい声音が、頭の上からアタシを包む。平川さんの優しい声に、アタシの目からは涙がポロポロと零れ落ちた。
「うわっ!? たまちゃん? 大丈夫!? ……って大丈夫じゃないよね? 怖かったよね……。でも、もう大丈夫だからね」
慌てた声の平川さん。多分、手が自由だったら、アタシを安心させる為に、背中をポンポンと叩いてくれていただろう。そんなアタシ達のやりとりを聞いていた周りの人達が、協力して平川さんが掴んでいた痴漢達を取り押さえてくれる。